武道の「残心」に学ぶ、コミュニケーションの美しい終わり方
コミュニケーションの終わり方を大切にする
日々の暮らしの中で、私たちは様々な人とのコミュニケーションを重ねています。家族や友人、地域の方々、趣味の仲間など、顔を合わせる機会は少なくありません。会話や集まりには必ず始まりと終わりがあります。多くの場合、始まりには挨拶や自己紹介があり、丁寧に行うよう心がけているかもしれません。しかし、会話や集まりの「終わり方」については、あまり意識していないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
どのように会話を終えるか、どのように別れを告げるかは、その後の関係性に大きく影響します。心地よい別れは、また次に会うのが楽しみになり、関係性をより良いものにしてくれます。反対に、慌ただしく、あるいは投げやりな終わり方は、相手に不快感を与えたり、わだかまりを残したりする可能性もあります。
武道の「残心」とは何か
コミュニケーションの終わり方を考える上で、武道の「残心(ざんしん)」という考え方が参考になります。残心とは、技を終えた後も油断せず、心身共に相手や周囲への注意を払い続ける心構えのことです。例えば、剣道では一本が決まった後もすぐに気を抜かず、相手の反撃に備えるとともに、礼を尽くす姿勢を保ちます。弓道では、矢を放った後も体の姿勢や心の集中をしばらく保ちます。
残心は単なる技術的な心構えではなく、相手への敬意や、その場への感謝、そして次に繋げるための大切な精神でもあります。「終わり」は次の「始まり」に繋がっているという意識を持つことと言えるでしょう。
コミュニケーションにおける「残心」の応用
この武道の残心の考え方を、日常生活のコミュニケーションに応用してみましょう。会話や集まりの「終わり」を単なる区切りとしてではなく、相手への配慮や、次に繋げるための大切な時間として捉えるのです。
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会話の「締めくくり」を意識する
- 話が途切れたタイミングや、時間になったからといって、急に会話を打ち切るのではなく、「今日は楽しい時間をありがとうございました」「〇〇さんのお話はとても参考になりました」といった感謝や感想を言葉にして伝えることを意識します。
- 次に会う約束があれば、「また来週、楽しみにしていますね」など、未来に繋がる言葉を添えるのも良いでしょう。
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別れ際の「振る舞い」を丁寧にする
- 武道では、稽古の前後にお互いに礼をします。これにならい、別れ際にも丁寧な挨拶やお辞儀を取り入れてみましょう。深いお辞儀でなくとも、相手の目を見て「ありがとうございました」と伝えながら、軽く会釈をするだけでも印象は変わります。
- 慌てて立ち去るのではなく、少し立ち止まって相手を見送る、相手が見えなくなるまで軽く手を振るなど、相手への配慮を示すことで、丁寧な気持ちが伝わります。
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その後の「心構え」を持つ
- 会話や集まりが終わった後も、相手との関係性は続きます。その場で伝えきれなかったことや、相手から受け取った言葉について後から振り返る時間を持つことも残心と言えるかもしれません。
- 次に会う機会があれば、今回の内容を踏まえて会話を始めるなど、前回からの繋がりを意識することで、より深い関係性を築くことができます。
日常での実践例
- 地域での集まりの帰り際: 「今日は皆さんのおかげで大変良い時間でした。ありがとうございました。どうぞお気をつけてお帰りください。」と周囲に声をかけ、一人一人に軽く会釈をしながら会場を後にする。
- 趣味のサークル活動後: 一緒に活動した仲間に「お疲れ様でした。今日の練習(作業)も楽しかったです。また次回もよろしくお願いします。」と笑顔で伝え、帰り支度を始める。
- 家族との会話の締めくくり: 寝る前や出かける前に話が終わる時、「今日もお話しできてよかったよ。ありがとう。おやすみ(いってらっしゃい)。」と一言付け加える。
- 若い世代との会話を終えるとき: 話が終わったら、「今日は〇〇さんの考えを聞けて勉強になりました。ありがとう。」など、相手から学んだことや良いと思った点を具体的に伝え、敬意を示して別れる。
まとめ
武道の残心は、「終わり」を単なる終了ではなく、次に繋がる大切なプロセスとして捉える考え方です。この精神をコミュニケーションに取り入れることで、会話や集まりの締めくくりが丁寧になり、相手に心地よい印象を与えることができます。それは、良好な人間関係を築き、維持していく上で非常に有効です。
日々のコミュニケーションの中で、意識して「終わり方」を大切にしてみてください。小さな心がけ一つで、周囲との繋がりがより温かく、確かなものになっていくことを実感できるはずです。武道の「礼」の精神は、私たちの日常に豊かな示唆を与えてくれます。